ロシア語のアルファベットには33文字あります。その中には、今と異なるアルファベット名称もあります。外来語「アルファベットАлфавит」よりも生粋ロシア語の「アーズブカ、Азбука」という名前のほうがロシア国内の初等教育では馴染み深いです。以前、「アーА」には「アズАз」、「ベーБ」には「ブーキБуки」、「ヴェーВ」には「ヴェーディВеди」という名称が付いていたので、最初の二文字の名称を組み合わせ「アーズブカАзбука」という言葉が生まれました。ちなみに、「アズ、ブーキ、ヴェーディАз буки веди」とは「私は文字を知っている」と訳します。「アズ」とは、イロハであり、事の始まりであり、基礎であり、基本であり、そして、常識でもあります。Аз(単数形) → азы(複数形)。イロハから始めること。それでは、Начнём с азов! 学習を基礎からはじめよう!Начнём с азов!
その1
兄弟都市とは?
日本語の「姉妹都市」という表現はアメリカ英語に由来するそうです。ロシア語では「姉妹都市」とはならず、直訳すると「兄弟都市」になります。города-побратимыと書きます。
Городは町、都市で、побратимはбрат、「兄弟」からできた単語です。「義兄弟」という意味です。
東京都とモスクワ市、大阪市とサンクト・ペテルブルグ市は「兄弟都市」ですが、名古屋市にはロシアの「兄弟都市」はありません。でも、愛知県の知多半島にある知多市にはなんとロシアの「兄弟都市」があります。それは東シベリア南部にあるチタ市です。ロシア語のスペルはЧитаです。その発音は日本語の知多市の発音に極めて似ているので、「兄弟都市」になったと思われます。
Чита и Чита – города-побратимы!
その2
ジューシーな料理から寒中水泳の「セイウチ」まで
ロシア冬の風物詩
1月6日はロシアのクリスマスイヴです。イヴはロシア語で「Сочельник」と言います。言葉の由来は、なんと、сок ジュース、ケシの実、アーモンドなどをすり鉢ですり下ろす際にしみ出る汁のことに遡ります。その汁を固めのお粥にかけ混ぜてクリスマスが到来する直前、つまり零時前にいただく習慣があります。甘ったるくて、ちょっぴりくどい、不思議な味のсочиво、イヴの料理です。
現在、ロシアのパン屋にはсочень,(複数形 сочни)が売っている所もあります。それはカッテージチーズ等が詰めてある菓子パンの一種です。宗教的な意味合がないようで、ただ単にジューシーなロシアのお茶菓子です。
1月19日はイエスがヨルダン川で受けた洗礼にちなんで、ロシアでは、氷が張っている湖や川に穴を開けて、そこで浸礼式の洗礼を行ったり、泳いだりする人がいます。泳いでいる人は洗礼儀式の参加者ではなく、身体を鍛えている寒中水泳の人達です。彼らはморжиセイウチと呼ばれています。
成人も、幼い子どもも、男も、女も、моржи達は、厚いコートに身を包んだ野次馬の前で元気に寒中水泳を楽しんでいます。ちなみに、セイウチと言う単語はロシア語のシヴーチ(トド)сивучに由来します。
ロシアの冬は厳しい季節ですが、ロシア人は様々な工夫をしながら、その寒い時期を乗りこえて暮らしています。
Зимой хоть и холодно, да весело!
冬は寒いけれど、楽しい季節です!
その3
「春の使徒」、一羽の燕
ロシアの春を告げるものは、雪解けによる河川の氾濫половодье、雪下から顔を出す華奢で、か細いマツユキ草подснежник、そしてロシア人が優しい呼び名を付けた「春の使徒」燕ласточкаです。燕は古くからкасаточкаと呼ばれ、愛しい女性の別名として使われていました。
Ласточка-касаточкаのように、ロシア語の~очк、~чкという響きは、ものに小さくて可愛らしいイメージを与え、愛称としてよく使われています。Ласточкаという単語は元々愛称を思わせるスペリングになっていますが、他にも身近なものが~чкの働きで小さくて、愛着のあるものに変わることが多いです。
鞄сумкаはсумочкаに、棚полкаはполочкаに、フォークвилкаはвилочкаに変化して、それを口に出す人の気持ちまで和らげてくれます。
ロシアにある農家の庇に一羽の燕が春先にさえずると、「ああ、春が来た」と言いたいところですが、「一羽の燕が春を創らず」と、Эзопイソップ物語に由来する諺通り、ロシアには本当の春はまだ先ようです。正に一羽の燕が春を創らず。
Одна ласточка весны не делает!
(文:Татьяна Ямадзаки)